図書館だより 第3号(2004.11.1)

■目 次
心の満腹感
  附属図書館長 吉良 国光
館内案内図
図書館活用術:図書館でよくある質問
図書館が送る芸術文化に親しむガイド
秋の夜長を楽しむ本とCD
  • 朝日新聞be編集部編『一流を育てる』(晶文社)
    一般教育 洲 雅明
  • 瀬戸正人『アジア家族物語』(角川ソフィア文庫)
    美術科 澤田 佳孝
  • 中国「剣侠」小説の薦め
    国際文化学科 鄧 紅
  • 藤原帰一『戦争を記憶する』(講談社現代新書)
    情報コミュニケーション学科 別府 三奈子
  • ホロヴィッツ・ゴールデン・ジュビリー・コンサート
    音楽科 石山 聡
  • 諸君、このCDを聴いて元気になろう!
    音楽科 行天 正恭
図書館という空間
   国際文化学科卒業生
試聴室に行こう!~試聴室お勧めのディスク~
  • モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」
    フルトヴェングラー指揮/ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
    音楽科 小川 伊作
職員のつぶやき
本学教員執筆書籍の紹介

附属図書館長 吉良 国光
 読書の仕方については、人それぞれで、これと決まった物はありません。私はどちらかといえば、ゆっくり時間をかけ読む方ですので、あまりたくさんの本読む事はできません。世に言う博学、博覧強記と呼ばれる人は、たくさんの本を読んで、たくさんの知識が頭に詰め込まれている人ですが、私にはどうもそういう読書はあまり向いていないようです。
 それでも学生時代は、小説好きの友人に影響を受けて、専ら小説を読んでいたように思います。その後徐々に専門書に移っていきましたが、その頃、試験が近づき、試験勉強をしていると、無性に小説が読みたくなったのを、覚えています。
 読む場合も、ただ漫然と読む場合、書かれている内容と格闘しながら読む場合と、いろいろあります。私の場合は、漫然と読み、あまり記憶に起こらない本もありますが、中には良いにつけ、悪いにつけ、感化を受けて、記憶に残っている本もあります。その本を今広げてみると、本の余白のあちこちにその時の気持ちを書きつづった書き込みがあり、苦笑したり、感心したりしながら、それを読み返してみるのも、楽しみの一つです。こんな事を考えていたのか?と感心したり、或いは、ちょっと考えが浅いな、と反省したりしながら。中には読後の何ともいえない充実感、精神的満足感を書きつづった物もあり、その時の気持ちが蘇ってきます。
 これからの秋の夜長、皆さんも興味や関心の赴く所に従って、読書を楽しみ、精神的満足感に浸ってみてはいかがでしょうか?
館内案内図

 秋深し。めっきり本が読みたい季節。図書館に来てください!今回は、日頃皆さんから出る質問にお答えするQ&A方式で活用術をお伝えしたいと思います。
1.本が見つかりません。
 貸し出し中ではありませんか?→利用者端末(パソコン)で蔵書検索をしてみましょう。
 探す場所は間違っていませんか?
  • 音楽・美術関係は、第1閲覧室へ
  • 分類番号300-699(社会科学、自然科学、産業・技術)、770-790(芸術、スポーツ・体育)、新聞・雑誌・指定図書(新)は、第2閲覧室へ
  • 分類番号000-299(総記、哲学、歴史)、800-999(言語・文学)、辞書・事典・郷土資料は、第3閲覧室へ
  • 雑誌(バックナンバー)、指定図書(旧)は、第1書庫へ
 館内で誰かが利用しているかもしれません。
 違う場所に紛れ込んでいる可能性もあります。→前後の書架も調べてみてください。
 どうしてもみつからなければカウンタ-まで。

2.図書の予約をしたいのですが。
 予約したい資料のタイトル・著者名等を所定の用紙に記入してカウンターでお申し込み下さい。ただし、貸出可能の通知後3日以内に手続きを取らない時は予約を解消したものとみなします。

3.雑誌の貸出はできますか。
 できます。貸出可能なものにKのシールを貼っています。ただし、最新号は貸出できません。

4.楽譜の貸出はできますか。
 できます。ただし禁帯出以外のもの。貸出期間は借りた日の夕方17時までです。また15時以降に借りたものに関しては翌朝9時までとなっております。

5.貸出期間を延長したいのですが。
 他に予約している人がいなけれな2回まで貸出期間を延長することができます。図書等と学生証(図書館利用券)をカウンター係員に提示して延長の手続きをしてください。

6.試聴室では何ができますか。
 CDの視聴、ミニチュアスコアの閲覧、ビデオやDVDの鑑賞ができます。通常12時30分から16時30分まで開室し、音楽科副手が在室しています。

7.視覚室では何ができますか。
 大型テレビや美術関係のビデオが配架され、複数でビデオやDVDの鑑賞が出来るようになっています。美術科等の講義にも利用されています。カウンター係員の許可を得て利用してください。

8.学術情報室では何ができますか。
 各大学の研究紀要等を配架しています。貸出は出来ませんが複写は可能です。

9.平日休館日に利用可能なことは何ですか。
 コピー機の利用と、図書・CD等の返却ができます。図書は玄関先に置いてある返却ボックスに入れてください。CDはカウンターまで持ってきてください。

10.探している資料が本学にない時は。
 他の大学の図書館などから借りたり文献のコピーを依頼することも出来ます。ただし、その場合実費を負担しなければなりません。ほしい資料について調べた上でできるだけ早くカウンターで相談してください。(詳しくは図書館利用ガイドP7~P8参照)

11.購入のリクエストをしたいのですが。
 カウンターに所定のリクエスト用紙がありますので、それに記入してください。また、以下の事項をできるだけ詳しく書いてください。
  • 書名
  • 著者名
  • 出版社
  • その他(シリーズ名、価格等)
 これらの事項がわからないとご希望の図書が購入できない場合があります。できるだけ要望にお応えできるようにしますが、予算面等で無理な場合もありますので予めご了承ください。
 いかがでしたでしょうか。お役にたてればこれ幸い。この他にもわからないことがあればお気軽にカウンターまでお問い合わせください。
 今年度後半(平成16年10月~平成17年3月)の芸術文化関連のイベント情報を集めてみました。ぜひ活用してみて下さい。
美術篇
【大分県立芸術会館】
「パリと画家たち」展
  • 平成16年10月19日(火)~11月21日(日)
  • シャガール、ボナール、ルオー、ユトリロ、ヴァン・ドンゲンなど、フランスの近代絵画を代表する巨匠たちと、フランス近代美術の影響を強く受けた梅原龍三郎、荻須高徳、佐藤敬などの邦人画家たちの作品展示による芸術の受容と展開の軌跡をたどる展覧会。

「没後170年記念 田能村竹田」展
  • 10月19日(火)~11月21日(日)
  • 展示解説11月13日(土)13:30~
  • 豊後国(大分県)竹田村の岡藩々医の家に生まれ、医業はつがずに、江戸や京坂の文人たちとひろく交流をもった江戸後期の文人画家である田能村竹田の収蔵作品を展示。

「高山辰雄」展
  • 12月16日(木)~2月6日(日)
  • 展示解説12月25日(土)13:30~/2月5日(土)13:30~
  • 1912年大分市に生まれ、東京美術学校(現・東京芸大)日本画科を卒業し、現在、日展顧問・日本芸術院会員という日本画壇の重鎮であり大分県とも関わりの深い画伯の収蔵作品を展示。

「第40回 県美展」
  • 写真:9月28日(火)~10月3日(日)
  • 日洋彫工:10月5日(火)~10月11日(日)
  • 書道:10月13日(火)~10月17日(日)
  • 県内で活躍する作家の力作が並ぶ展覧会。特に日洋彫工(日本画・洋画・彫刻・工芸)の分野では本学の卒業生も多く出品しています。

【大分市美術館】
「ザビエル・宗麟・キリスト教 南蛮文化の精華」展
  • 9月17日(金)~10月24日(日)
  • 1551(天文20)年、キリスト教宣教師フランシスコ・ザビエルが豊後府内を訪れ、大友宗麟と面会しましたが、府内のみならず、16世紀後半にキリスト教と貿易を通じて、日本各地で華開いた南蛮文化の諸相を重要文化財16点を含む美術品、歴史資料、考古資料等約120点により紹介。

音楽篇
【2004年】
西かおりフルートリサイタル 音の泉
  • 10月8日(金) 開演:19:00
  • 大分県立総合文化センター 音の泉ホール
  • 入場料:2000円

第33回「グループUNO」コンサート
  • 10月15日(金) 開演:19:00
  • 大分県立総合文化センター 音の泉ホール
  • 入場料:一般2000円/学生1000円

サンクトペテルブルク室内管弦楽団
  • 10月21日(木) 開演:19:00
  • 大分県立総合文化センター グランシアタ
  • 入場料:A席:5,800円/B席:5,300円/C席:4,800円(全席指定)

秋のコンサート~ゆふいん音楽祭30周年記念~室内楽の夕べ
  • 10月23日(土) 開演:20:00
  • 由布院 空想の森 アルテジオ
  • 入場料:3000円
  • ピアノ:小林道夫、チェロ:山崎伸子、ヴァイオリン:岡山清

藤野誠也ピアノリサイタル
  • 10月29日(金) 開演:19:00
  • 大分県立総合文化センター 音の泉ホール
  • 入場料:1000円

大分市歴史資料館平成16年度秋期特別展付帯行事
  • 10月30日(土) 10:00開演 筑前琵琶
  • 10月31日(日) 14:00開演 雅楽
  • 11月3日(水)  14:00開演 西洋古楽
  • 大分市歴史資料館エントランスホール

大分交響楽団第28回定期演奏会(創立40周年記念演奏会)
  • 10月31日(日) 開演:14:30
  • 大分県立総合文化センター グランシアタ
  • 入場料:一般1500円(当日1800円)/学生1000円(当日1200円)
  • 指揮:山田 啓明  バリトン:馬場眞二
  • プログラム:第一部 セヴィリアの理髪師:序曲/セヴィリアの理髪師:「私は町の何でも屋」/椿姫:「プロヴァンスの海と陸」/カヴァレリア・ルス ティカーナ:間奏曲/マクベス:「慈悲も尊敬も愛も」/アンドレア・シェニエ「祖国の敵」;第二部 リムスキーコルサコフ:シエラザード

2004秋はモーツァルト!vol.2 MAROワールド?水と油を迎えて
  • 11月02日(火) 開演:19:00
  • 大分県立総合文化センター 音の泉ホール
  • 入場料:一般指定4000円、学生当日指定1500円、ファミリー指定(小・中学生とその保護者2名)4000円 ※ファミリー席を利用の方、翌日のレクチャー「パントマイムをやってみよう」に無料で参加可
  • 篠崎史紀(まろ・NHK交響楽団コンサートマスター)、他6名、マイム集団「水と油」

ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場 モーツアルト歌劇「ドン・ジョヴァンニ」
  • 11月19日(金) 開演:18:30
  • 大分県立総合文化センター グランシアタ
  • 入場料:GS席:13000円/S席: 10000円/ A席: 8000円/ B席: 6000円/ 学生(当日指定・25歳以上): 2500円

冬のコンサート~ゆふいん音楽祭30周年記念~
  • 12月30日(木) 開演:20:00
  • 由布院 空想の森 アルテジオ
  • 入場料:3000円
  • 小林道夫BACHゴールドベルグ 演奏会

【2005年】
瀬木貴将 ネイチャーワールド・ライブ
  • 1月21日(金) 開演:19:00
  • 大分県立総合文化センター 音の泉ホール
  • 入場料:未定

小林道夫の"鍵盤楽器の変遷
  • 2月22日(火) 開演:19:00
  • 大分県立総合文化センター 音の泉ホール
  • 入場料:未定

NHK交響楽団
  • 3月6日(日) 開演:未定
  • 大分県立総合文化センター グランシアタ
  • 入場料:未定

人形浄瑠璃文楽
  • 3月12日(土) 開演:昼の部14:00 夜の部18:00
  • 大分県立総合文化センター 音の泉ホール
  • 入場料:未定
 今年の秋はいつもとちょっと違う読書に親しんでみませんか。先生方に学生のみなさんへの読書案内を執筆していただきました。音楽科の先生によるおすすめCDの紹介もあります。取り上げられた本やCDは、附属図書館に所蔵もしくは所蔵予定です。

一般教育 洲 雅明
 アテネオリンピックでは、たくさんの感動シーンをテレビで見ることができました。日本選手が多くのメダルを獲得した理由は、JOCのゴールドプランや科学的トレーニングによる部分が大きいと考えられますが、指導者の存在も忘れることができません。アテネオリンピックでも、指導者がクローズアップされることがありましたが、今回ご紹介する本では、成功した指導者をアテネオリンピックの指導者も含め多数紹介しています。
 指導方法の秘訣を一言でいい表すことは困難です。それは、一流選手が優勝や記録をねらう場合であったり、専門外の指導者がスランプに陥った選手をアドバイスする場合であったり、将来すばらしい選手になるための土台を築く場合であったりと指導場面が様々だからです。さらに対象選手の性格や年齢、国民性、そして指導者のタイプなどが関係してきます。
 この本には実に様々な資質を備えた指導者が登場しています。積極性、カリスマ性、人材抜擢力、感性力、夢や目標達成力、マネジメント力、(教えすぎない)指導力、独創性など多種多様なのですが、いい指導者がこれらすべての要素を兼ね備えているわけではありません。そのような資質が、選手に合致し、効果的に適用された時に一流選手が育ち、成功していくことが20あまりのストリーとして書かれています。次のようなどれも興味を引く内容です。「Jリーグから世界へ夢の実現」「W杯代表監督」「阪神の優勝への改革」「オレ流」「最新トレーニング理論の応用」「シンクロの金メダルへの挑戦」「スケート指導における芸術と技術」「大学運動部改革」「一貫指導で金メダルへ」……。
 スポーツ選手と指導者について中心に書かれた本ではありますが、人材育成や組織論の観点からも大変興味深い内容を読み取ることができると思います。
(すが まさあき/体育)
美術科 澤田 佳孝
 図書館だよりの原稿を依頼され、美術の教員なのだから美術関係の本にしたらとか、色々思ったり、迷ったりしたあげくに結局この本を紹介することにした。私事ではあるが、この数年タイにはまっている。その始まりは、もう6年ほど前に家族そろってタイに行き、その国に触れたことに遡る。その時現地で世話になったのが以前本学の事務局に勤務されていた方であり、またその息子さんの結婚相手がタイ人女性であったため、一般のタイ旅行よりも、より詳しくより深くタイという国に触れることができたし、その後タイにのめりこんでゆく契機となったように思う。
 さて、今から紹介する「アジア家族物語」は、タイおよびアジアに興味を持ったぼくが、いままでに読んだ、いわゆるアジア本のなかで、最もひかれ、感銘を受け、共感した本だ。著者の瀬戸正人氏は、残留日本兵の父とベトナム系タイ人の母との間に、タイとラオスの国境の町ウドーンタニに生まれ「トオイ」と名づけられた。8歳の時に、父の故郷である日本の福島に渡り、「正人」とよばれるようになり、後に東京に出た彼は、父の影響で写真家となった。その後写真家として、いわば自分のルーツを求め、幼い頃の記憶をたぐり寄せるように、タイのバンコクに、生まれ故郷のウドーンタニヘ、そして母方の親戚たちのすむベトナムのハノイへと自分探しの旅にでる。その旅と生活の体験を綴ったのがこの書である。
 一般のアジア本が、アジアでの、ショッピングやグルメ体験での泣き笑いを綴ったものが大部分であるのに比較して、この本は、それらとは少し異なり、いわば幼い頃の記憶と自分の中に流れているアジアの血、またアジア人としての一体感に裏打ちされて書かれている。また写真家としての彼の文章には、色、形、匂いなどの視覚的・感覚的要素を通して、思想的なものが記述されていて、他にはない魅力となっている。
 この本を読み進むにつれて、あのタイ東北部(イサーン地方)の真っ赤な大地の色、バンコクやチェンマイの屋台で食べた料理から漂う、ナンプラー(魚醤)やパクチー(香草)の香りが鮮やかによみがえってくるように感じる。
(さわだ よしたか/デザイン)
国際文化学科 鄧 紅
 最近、中国の「剣侠」(「武侠」とも言う)小説が日本で流行っています。「剣侠」とは、一本の剣を手にして天下江湖を回り、弱い者を助け、悪い者をやっつける「任侠」のことです。しかもその「剣侠」は、もともと天才の場合もあるし、子供の頃「奇人」によって奇妙な剣法を教わり、それを修練してやっと一人前の「剣侠」に成長することもあります。彼(あるいは彼女)は、それから江湖を走り、様々な人と出会い、想像もつかない試練と愛憎の激しい世界を体験して、ハッピーエンドか悲劇の結末に向かっていきます。ちなみに、日本の「北斗の拳」、「聖闘士星矢」、あるいは「七人の侍」はそれに近いものでしょう。
 「剣侠」小説は、中国では「大人の童話」と言われるほど絶大な人気を誇り、人々から愛されていて、また心身を楽しませて、余暇を過ごす手段の一つとなっています。著名な作家に金庸、古龍、梁羽生、陳青雲、臥龍生などがいます。
 日本に紹介されたのはここ十年来のことで、その中でも金庸と古龍を中心にいくつかの作品が日本語に訳され、映画化もされています。以下はそれらを紹介してみましょう。
  • 金庸 『射雕英雄伝』 徳間書店
  • 金庸 『碧血剣』   徳間書店
などなど。徳間書店からは、「金庸の世界」というシリーズで約10種類の作品が邦訳され、訳者(あるいは監訳者)はなんと岡崎由美という女流文学者です!!
  • 古龍 『辺城浪子』 小学館文庫
  • 古龍 『歓楽英雄』 学習研究社
 大分県立芸術文化短期大学附属図書館と鄧研究室にもいくつかの作品が配架されていますし、県立図書館とコンパルホールの図書館にもたくさんあるらしい。さあ芸短生たち、探し出して読んでみませんか。すぐにはまりますよ。
(とう こう/中国文学)
情報コミュニケーション学科 別府 三奈子
 この本は国際政治学者が、戦争にまつわる記憶の種類と由来について書いた、薄い一般向け文庫本です。同じ著者の近著が数冊あり、いずれも文章平易で読みやすいです。
 本の内容は、常備軍をもつ欧州の戦争観と民兵を募る米国の戦争観の相違、米国の世論が反戦から正戦にシフトした歴史的経緯、反戦・正戦と聖戦の意味の違いなどについて論証し、日本のおかれた現状に光をあてています。
 戦争の記憶については、「国家の記憶」と「個人の記憶」が別々に存在すること、「国家の記憶」は、国際政治関係によって後から作られていくこと、「個人の記憶」は当事者本人、加害者、被害者、遺族、といった立場と個別体験によって異なり、それぞれの主張が平行線をたどりやすいこと、反戦と正戦は思想的には根を同じくすることなどを指摘しています。
 例えば、原子爆弾投下を、絶対悪ゆえに反戦につながるシンボルとして扱う日本の風潮と、戦争を終わらせた英雄的存在として語られやすいアメリカの認識を対比させつつ、歴史の記憶の形成過程を分析します。
 日本についても、政治として「ヒロシマを叫ぶ文章は多いが、広島を語ることばは少ない(後略)」と指摘し、一方で「それぞれの個人に戻ってみれば、戦争の記憶とは、理解できないほど残酷な運命を、ただ黙って耐えていくという行為でしかなかった(後略)」と、分析を進めていきます。
 記憶の分析方法として、マスメディア、特に映画や文学などの作品を用いて、その時代に流れる意識を抽出している部分は、メディア研究の領域とも重なり興味深いです。個人的には最終章には異論がありますが、示唆に富んだ一冊です。
 世界各地で、戦闘の日常と非日常の境界線が、なくなりつつあります。従来の戦争とは違った方法でも武器が使用され、同じように大量の人びとが傷ついていきます。自分たちの未来をどうするのか。秋の夜長に自由に本を読めるなら、是非手にとってじっくりと思考を重ねていただきたいオススメの一冊です。
(べっぷ みなこ/ジャーナリズム論)
音楽科 石山 聡
ホロヴィッツ・ゴールデン・ジュビリー・コンサート
  • ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調 作品30
  • ウラディミール・ホロヴィッツ(ピアノ)
  • ユージン・オーマンディ指揮
  • ニューヨーク・フィルハーモニック
  • 発売元:RVC株式会社 RCCD-1033
  • 1978年1月8日カーネギ・ホールに於けるライヴ
 1989年11月5日、ニューヨークの自宅でウラディミール・ホロヴィッツは86歳の生涯を閉じた。当時ぼくはフランス留学中でパリ郊外の町ナンテールに住んでいた。彼の死を知り、フランスでホロヴィッツの記事が載っている音楽雑誌をいろいろ購入し、また日本から彼の記事が載っている新聞を片っ端から送ってもらい追悼の念に浸った記憶がある。もうあと少しで15年が経つのかと思い、感慨深くこの文章を書いている。今でもこの時の雑誌、新聞等は大切に持っている。
 当時のぼくが住んでいた所は若い音楽家専用のレジデンスで、練習終了後や時間がある時などは仲間達と集い、いろいろな演奏家の音楽を聴き、ぼくらの夢見る未来の音楽家像を確かめるべく語りあっていた。もちろんホロヴィッツのCDも沢山聴いた。しかし、このホロヴィッツ・ゴールデン・ジュビリー・コンサートとの出会いほど、ぼくに震えるほどの感動をもたらしたものはない。難曲中の難曲、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番をニューヨーク・フィルハーモニックをバックに、78歳のオーマンディと73歳のホロヴィッツが組んでのパフォーマンスである。このゴールデン・ジュビリー・コンサートはホロヴィッツ、アメリカ・デビュー50周年を記念して行われたものであるが、彼の希望でデビュー時と同じ会場、同じオーケストラのもとでの演奏である。ラフマニノフの憂愁をおびた抒情的な旋律はホロヴィッツの指先を通して美しく描き出される。その音の響きは、ぼくらの心の中にしみわたり、なにかわからないが懐かしさともいうべきものか、限りのない憧れのようなものを生みだす。
 「私が弾く時に目指しているのはピアノで"歌う"ことです」とホロヴィッツはある雑誌のインタヴューで述べていた。ホロヴィッツは1925年にソヴィエト連邦を去った。はるかなるロシアの大地をアメリカから思い、郷愁の心で歌い上げたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。この演奏は是非皆にも聴いてもらいたいと思う。
(いしやま さとし/ピアノ)
音楽科 行天 正恭
B a l a d a(望郷のバラード)
  • ヴァイオリン:天満敦子
  • ピアノ:吉武雅子
  • 発売元:KING RECORDS KICC 423
  • 2003年5月20日・21日 府中の森芸術劇場・ウィーンホールに於けるライヴ
 天満敦子という人を知っていますか?クラシック界では異例のCD売り上げを記録した、現在最もコンサートチケットが取りにくいヴァイオリニストです。彼女が十数年前にルーマニアを訪れた時に、一人の日本人外交官の手により託された楽曲〈望郷のバラード〉。作曲者ポルムベスクは、オーストリア=ハンガリー帝国に支配されていた母国ルーマニアの独立運動に参加して投獄された。その獄中で、故郷を偲び、恋人に思いを馳せながらこの曲を書き上げた。哀愁のメロディーに、熱く、切なく、天満敦子の奏でる銘器ストラディバリウスが、秋の夜長心に染み入る。また、このCDでは、ピアノ伴奏付と、無伴奏に定評のある天満敦子ならではの「望郷のバラード」無伴奏版の両方が楽しめる。
 収録曲には、皆さんお馴染みのグノー、シューベルトの「アヴェ・マリア」をはじめ、シューマンの「トロイメライ」、クライスラー「愛の悲しみ」や、生命力溢れるヴィターリの「シャコンヌ」、バルトーク/セーケイ「ルーマニア民族舞曲」など名曲揃いの名盤である。楽器のジャンルを越えて、音楽の喜びを味わえるだろう。
 彼女の演奏の魅力は、どこか甘く切なく、懐かしさを感じさせる。しかしながら、聴き終わった後に残るのは、爽快感と、元気の源!何とも不思議な魅力を持ったヴァイオリニストである。
 是非皆さんも、この演奏の魅力にハマッテみませんか?
(ぎょうてん まさやす/声楽)
 私は今、図書館について学んでいます。図書館を利用する側よりも、図書館業務の管理や処理という側についてのことがほとんどなので、そのせいかもしれませんが、今まで自分の中にあった図書館像とかなり異なる側面ばかりで正直戸惑うことが多いです。
 それまでの私の中の図書館は、小学校から高校までで利用し、馴染みのあった、「読書をするための場所(貸出サービス)」というものだけでした。しかし、それ(貸出サービス)は図書館の数ある機能のほんの一部分に過ぎない事を学びました。例えば、必要な資料を利用すること、本や資料について案内を受けたり質問をしたりできるレファレンスサービスというサービスがあること、また、近年いわれている生涯学習を提供する場所であることなど。当たり前に行なっていたことがひとつの機能として確立していたり、全く知らなかったサービスの存在があったりします。私の中で「貸出サービス」という機能の重点が大きかったため、その他の機能に対しては未だに違和感を覚えることがありますが、実際に大学に入ってレポート作成時や発表の準備の際に図書館の資料を利用したり、また、レファレンスサービスについての授業の一環としてレファレンスツール(身近なものでいえば蔵書検索システムなど)を使う演習などをしていく中で、徐々にですがひとつひとつの機能が図書館を構成するのに大事な要素であり、それを知り、上手く利用していくことでより図書館を活用できるのだと思うようになりました。
 更に、情報化などに伴い図書館はどんどん変化しています。最近、電子図書の出現による図書のデジタル化(自分の手で触れて読むアナログの図書の方が好きだし、その形の読書も必要だと思うのですが、コストや在庫、資源などの面でデジタル化は増えていくようです)が進み、このことから図書館で本を借りるという貸出サービスの利用の減少などが懸念されたりしています。資料提供の機能も、インターネット社会の普及のため薄れつつあるのも事実です。それでも、これは私自身が図書館を好きであるからそう思うのかもしれませんが、図書館にしかできないこと、図書館だから出来ることはたくさんあります。図書館や現代社会について知ることは、図書館の必要性、重要性を知り、これから先の図書館の姿を築いていくことだと思います。その色々な機能を持つ図書館をもっと知って、有効に利用する人が増えていけばと思います。
国際文化学科卒業生
モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」
フルトヴェングラー指揮/ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
(1954年10月 ザルツブルク音楽祭) (POBG-1022:DVD)
音楽科 小川 伊作
出演者
  • ドン・ジョヴァンニ  :チェーザレ・シエピ
  • レポレロ       :オットー・エーデルマン
  • ドンナ・アンナ    :リーザベト・グリュンマー
  • ドン・オッターヴィオ :アントン・デルモータ
  • マゼット       :ヴァルター・ベリー
  • ツェルリーナ     :エルナー・ベルガー
  • ドンナ・エルヴィラ  :リーザ・デラカーザ
  • 騎士長        :デジェー・エルンシュテル
 今回のディスクは歌劇である。当然音だけでは面白くないので映像付きだ。タイトルの『ドン・ジョヴァンニ』 は、この物語の舞台となっているスペイン語では「ドン・フアン」となる。なんのことはない、女性をかたっぱしから口説いて回る「色男」の話だ。「おお、神聖なクラシック音楽にそのような題材は…」とお嘆きのかたは、すこしお待ちを。我々が「クラシック」とひとくくりにしている西洋音楽だって、少し仔細に見れば、決してひととおりではない。特に歌劇はもともと娯楽として生まれてきた経緯もあり、その題材はシリアスなものとは限らないのだ。
 話を戻すとこの歌劇は、実はプラハで初演されている。前作「フィガロの結婚」が好評だったためだ(これで前回の話につながる)。登場人物は主役のドン・ジョヴァンニ、従者のレポレロ、昔捨てた女性ドンナ・エルヴィラ、騎士長の娘ドンナ・アンナ、騎士長、ドンナ・アンナの許嫁ドン・オッターヴィオ、村娘ツェルリーナ、ツェルリーナの許嫁マゼット。
 全体は2幕からなり、前半の第1幕は22場に分かれ、夜這いに失敗して、騎士長を殺してしまう場面に始まり、あらたな獲物を物色するドン・ジョヴァンニの行動と、サブストーリーとして村娘ツェルリーナとマゼットのやりとりが描かれる。第2幕(全17場)ではかつてドン・ジョヴァンニが捨てた女、ドンナ・エルヴィラを交え、当時のオペラでは定石ともいえる人違いの手法(ドン・ジョヴァンニとレポレロが衣装を換える)を用いながら話は展開する。最後は物語冒頭でドン・ジョヴァンニが刺殺した騎士長ののろいによってドン・ジョヴァンニは地獄に堕ちる。物語自体は最終的には勧善懲悪のかたちをとってはいるが、個々の内容はとても道徳的とはいいがたい理由は先に書いたとおり。
 このディスクは『ドン・ジョヴァンニ』のものとしては、一番古いものに属する。にもかかわらず今回取りあげたのは出演者、特にドン・ジョヴァンニ役のバス歌手、チェーザレ・シエピの魅力によるところが大きい。まだビデオなどない時代、映画として製作された。映画館で見たときは画面もフォーカスが甘かったと記憶しているが、DVD化により飛躍的に鮮明になった。衣装やセットも近年よく見られるような抽象的なデザインのものや、背広姿といったものでなく、正統的に17世紀当時の雰囲気を表していて音楽だけでなく視覚的にも楽しめる。
 聴きどころはやはりシエピ扮するドン・ジョヴァンニのアリアだろう。独唱では「シャンパンの歌」(第11曲)。早口でまくしたて、歌手の技量が試されるアリアでもある。それとドンナ・エルヴィラをレポレロに連れ出させた後、女中を口説くセレナーデ「さあ窓辺においで」(第16曲)は、一度聴いただけで、口ずさみたくなるような美しいアリアだ。いずれもシエピの、高音域までのびやかなバリトンの美声が堪能できる。さらに結婚式を控えたツェルリーナを口説くツェルリーナとドン・ジョヴァンニの二重唱「あそこで互いに手をとりあって」(第7曲)もまた美しい曲であり、ショパンがこの曲を主題に変奏曲を書いたほどである。ただし歌詞の内容は、揺れ動く女心というか…(字幕で確認されたし)。このほか第一幕冒頭で歌われるレポレロの「カタログの歌」(第4曲)、第二幕後半で歌われるドン・オッターヴィオのアリア(第21曲)と聞き所は多い。いずれにせよこうしたアリアの美しさは比類がない。歌われている内容がなんであれ、音楽はおかまいなしに格調高く響く。ついうっかり「こんな美しい音楽を書いたのだから、作曲者自身も美しい心をもっていたはず」などと思ってしまうほどだ。しかしモーツアルトの伝記映画「アマデウス」を例に出すまでもなく、この時代の作曲家は私情を創作には持ち込まないのだ。作品と人格は別なのである。
 この点についてはモーツアルトが書き残した手紙から、彼の考えを知ることができる。「恐ろしいありさまを描くにしても、音楽は決して耳を損なうようであってはならないのです……いつも音楽にとどまっていなければならないのです」(1781年9月26日付の手紙)というように、モーツアルトにとっては「詞は絶対に音楽の従順な娘でなければならない」(1781年10月13日付の手紙)のであった。彼にとっては常に音楽的な心地よさが優先していたことが分かる。しかし『ドン・ジョヴァンニ』はこの手紙から6年後の作品だ。モーツアルトも変わった。時として「音楽にとどまって」いることを、超えている部分があり、それがこの作品に一段と深みを与えているといえるだろう。それは特に最後の地獄落ちのシーンによくあらわれており、モーツアルト晩年の特徴でもある暗い響きが劇的に生かされた場面といえよう。
 女性の微妙な心のゆれをおりこみながら、けしからぬことをしているのは一貫して貴族達であり、全体としてみると、立派な貴族社会批判になっているあたりは、前作『フィガロ』以上である。この初演のわずか2年後にはフランス革命が勃発する事を考えると、台本作者ロレンツォ・ダ・ポンテおよびモーツアルトは社会の潮流をよく見ていたというべきだろう。
 試聴室にはこの歌劇だけで他に3種類のDVDがあります。もちろんこれ以外の歌劇も。壮大な神話に基づくものから、涙を絞る世話物まで、ひと味違うクラシックはいかが?
 さあ試聴室へ行こう!
(おがわ いさく/音楽学)
「橋をかける」
 というタイトルの本をご存知ですか。
 これは数年前のIBBY(国際児童図書評議会)で、美智子皇后がビデオ講演された内容をまとめて出版された本です。
 私は前職場(県立図書館)では、県内の公共図書館職員の資質向上を図る研修や、読書推進関連の事業等に携わっていました。そうした中で出会った印象的な「一冊」です。特に子どもの頃に本を読むことの大切さやその楽しみについて「本は私に一つの根っこのようなものを与えてくれました。本というものは、時に子どもに安定の根を与え、時にどこにでも飛んでいける翼を与えてくれるもののようです」と表現されています。
 他の誰が読書の重要性を力説しても、自分にとって大切な「一冊」と出会わないことにはなかなか納得できないものです 。その「一冊」と出会うきっかけを作ることができれば、みなさんと本との間に橋をかけるお手伝いができればという思いで(と言いながら、日々の業務に追われている毎日ですが)今年4月から附属図書館に勤務しています。
 附属図書館には約9万冊の蔵書があります。みなさんが直接手に取って見ることができるのは約6万冊ですが、読書の意義や重要性などということを離れたところで楽しめる本やCDもたくさんあります。気軽に図書館を楽しんでください。
 ここでご紹介した本の最後は「読書は、人生の全てが、決して単純でないことを教えてくれました。私たちは、複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。人と人との関係においても。国と国との関係においても」と結ばれています。相手の言葉に耳を傾け、その立場に立ってみる、想像力を育んでくれるのも本のもつ大きな力だと思います。複雑な現代社会、自分を大切にすることと同時に、他者への思いを深め、お互いに橋をかける気持ちが根底にあれば、良い人間関係を築いていけるのではないでしょうか。
 あまり引用が多いと著作権法にふれますのでこのあたりで……。
(姫野)
 ※『橋をかける──子供時代の読書の思い出』(すえもりブックス)
 ※2004年4月以降
  • 大分県人権問題研究会(代表 吉良伸一)『平成16年人権意識に関する県民意識調査報告書』大分県人権・同和対策課
  • 田村紀雄ほか編(別府三奈子 共著)『現代ジャーナリズムを学ぶ人のために』世界思想社
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