これからの大分県立芸術文化短期大学

(2012年04月01日)

大分県立芸術文化短期大学 
学長 中 山 欽 吾
学長 中山欽吾
はじめに
 本学が開学して以来、様々な変遷を経て半世紀が経った。中でも創立30周年を迎えた平成3(1991)年は、高揚感に充ち満ちていた時代だった。県内の高等教育の拠点として本学の重要性が認識され、発足が決まっていた国際文化学科、及びコミュニケーション学科(後に情報コミュニケーション学科に改称)の校舎建設が佳境を迎えていた。卒業生総数も5000人を超え、創立以来の悲願とされていた4年制移行の機運も高まっていた。
 しかしその後、本学を巡る経営環境は大きく変わり、4年制への移行は封印され、芸術系学科に学士号を取得できる認定専攻科が発足したに留まっている。そして、今や全国のほとんどの高等教育機関でも安定した経営環境は期待できない、厳しい時代に突入しつつある。
 大学入学年齢人口の減少による大学全入などの本質的な環境変化に対応するには、学生規模の大幅拡大や、全面4年制化のごときドラスティックな方法は慎重を要する。今後の経営環境を正しく予測し、リスクを最小限に保ちながら、地域に根ざす大学としての新たな成長のストーリーを実現して行かざるを得ない。ただ、将来客観情勢が整えば、より高度の教育機会提供に必要十分の体制を目指すことに躊躇はない。

ビジョンの骨格
 本学の使命を遂行するために、この3年間《小さくてもきらきら輝く宝石のような芸文短大》を目指した活動を展開してきた。その成果が、ようやく外部からも認知されるところとなり、本学の存在価値を改めて検証する好機となっている。そのようなタイミングで、平成21(2009)年に学長の諮問機関として「ビジョン策定委員会」を設置し、本学の将来像について検討を行った。
 その答申には、次の5項目が唱われている。
  1. 「地域に根ざし、地域に貢献し、地域に支持される大学」による「地域社会で活躍する人づくり」の重視
  2. 学生たちが活き活きと学び、卒業後の進路に自信が持てるような教育活動の展開
  3. 大分県民の生涯学習ニーズに応え、豊かな暮らしの実現に貢献する
  4. 大分県内の各地域と連携しつつ、地域における芸術と文化を継承発展させていく人材を育てること
  5. 大分県内の企業・団体・NPOと協力して地域貢献活動を推進し、産業と経済に活力を与える人材を育てること
 その上で、本学の4大化については、「大分県にとっては多額の教育投資であり、かつ、県民の注目を集める事業であるがゆえに、行政や議会、一般県民を説得し、納得させられるだけの力強い構想が必要である。」と答申を結んでいる。

 ちなみに、全国で芸術大学は、国立が東京芸術大学のみであるのに対して、公立大学では大学名称に“芸術”を掲げているのが4大学である(なお、公立大学が設置する芸術系学部は12。)この4大学の立地の前提となっているのは、いずれも地元に伝統工芸や産業、プロオーケストラなどがあり、地元自治体が大学と一体となって産業育成をサポートしていることである。しかるに、本学はそのような産業基盤はない。にもかかわらず、現在全国の30近くの道府県から学生が集まっている本学の魅力あるいは教育力の高さは、本学の将来を構想する上で重要な要素である。
 ところで、リタイア(退職)人口が大幅に増える時代となり、生涯教育、リカレント(学び直し)教育のニーズが増加している。退職後で学習意欲を持つ層のほかにも、一旦社会に出た後、自分の進路に疑問を持ち、再教育の機会を探している層も増えていることは無視できない。すでに本学にはそのような社会人学生が入学している。これらの就学予備軍を取り込むことは、重要な観点である。これらの意欲ある社会人層の学習ニーズを取り込み、彼らにとって魅力的な教育機会を提供することは、十分検討するに値する。

本学の競合優位性
 本学が、時代の逆風に打ち勝ち、存続・発展するためには、下記のような競合優位性に着目して、その資源なり環境を徹底的に活用することが重要である。
  1. 授業料の安さを前提とする学生にとってのコストパフォーマンス
  2. 他府県にないユニークな学科構成・教育環境(芸術系学科と人文系学科の併設)
  3. 学生数千名以下という大学の規模(専攻科を入れても900名強)
  4. 学科間の壁が比較的低く、科を横断した学生たちの履修機会が確保されている。
  5. 積極的に学外に出て行く機会があり、その範囲も広いため、学生たちが社会経験を積みリーダーシップ教育にもなっている。
  6. 市街地から近接している立地のよさが、住環境やアルバイトへの良好なアクセスに繋がっている。社会人入学にも適した立地である。
  7. ここ数年、自治体や団体との活発な協力協定の締結やマスコミによる取材回数が急増し、認知度が高まったことで、地域社会からの支持が増えている。
  8. 大学の家庭的環境からくる学生たちの醸し出す雰囲気(素直で明るく前向き)は、社会から高い評価を得ている。

改革の方向性
 平成22(2010)年に実施した本学学生へのアンケート結果では、人文系でも専攻科設置の希望者が多い。ビジョン策定委員会が検討したように、4年制の議論以前に、専攻科の導入を検討する必要があると判断される。コース制への転換と、専攻科の新設が現実的な方向である。その際、短大と専攻科の接続性を考慮した専攻の設定が可能となるよう、現在の学科や専攻は、思い切った組み替えを検討すべきである。
 芸術系については、専攻・コース別学生募集に関して、学生数と専任教員のバランスや、専門によっては受験者が減少するなどの跛行現象がある。一方で、専攻科では2年制の認定専攻科に移行して以来、年毎に進学志望者が増える傾向が続いている。今後、実態に合わせた専攻科の改編など、柔軟な対応が必要である。すでに美術科デザイン専攻生活造形コースにおいて卒業後の進路を意識した新専門分野(プロダクトデザインほか)を開講したが、学生や入学希望者に肯定的に認知されつつある。
 このほか、現在提供していない新たな専門分野の開設について、音楽科における吹奏楽専攻の新設や美術科における書道コースの新設などが候補になるだろう。前者については、すでにニーズが顕在化していることであり、既存の管弦打コースに加えてサキソフォンとユーフォニウムを入れれば楽器編成が揃うことになる。また、後者は、芸術系と人文系のブリッジともなる境界領域であり、本学のような大学環境では様々な応用が考えられる。
 どのような改革を行うにせよ、施設改修が焦眉の急である。音楽科では、他の主要音楽大学がいずれも本格的なホールや十分な練習室があるのに対して、練習室の不足など施設面の弱みが目立ってきている。美術科でも、新しい教材機材などの導入や更新に設備面でも支障が見られる。こういった収容面などの問題だけではなく、ほとんどの校舎が築後35年を経過しているという問題がある。維持修繕といった経費面だけでなく、何よりも、さすがに市街地中心部に近接し緑に囲まれた立地にあっても、学生獲得への障害となる可能性が高いボトルネックとなっている。

むすび
 大学教育を巡る時代のダイナミズムに対応していくため、現在でも極めてユニークな成果を挙げている本学の持つ特色を最大限に生かす、新たな方向性を決定したい。学科内の総点検と教育内容の改善を行い、併せて、施設のネックを解消することに注力するというシナリオは、短大の維持という範囲ではあるが、将来の4年制移行に結びつく諸条件の検証と実績を積み重ねることにもなる。
 我が国の公立芸術系高等教育機関として最後まで残った短大である本学は、逆に希少価値として支持される可能性もある。北海道から沖縄まで全国の高校生が本学に学びに来るという事実、県外生で就職を希望する者の半数が卒業後も本県に定着するという事実も、本学にとってのプラス評価につながるだろう。
 最後に、本学改革の具体的な検討と実行には全学教職員が一致団結し、また、本法人設置者である県には施設整備での側面支援をいただきながら、短期間で実現させるつもりであることを付記しておく。

平成24年3月発行
大分県立芸術文化短期大学創立50周年記念誌「航跡」~地域に輝き50年~より抜粋

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