全国都道府県議会議長会講演(2010年10月26日)

文化を資産化する

全国都道府県県議会議長会講演
 全国都道府県議会議長会(会長・金子万寿夫鹿児島県議会議長)が10月26日、大分市で定例総会を開催し、その記念講演の講師として中山欽吾学長が招かれ、「文化を資産化する」と題した講演を行いました。
 その講演要旨をご紹介します。
 なお、学長講演に先立ち、本学音楽科卒業生による「弦楽四重奏・アンサンブルK」のミニコンサートもあわせて行われました。

■はじめに
 今日のお話は「芸術文化」に関することですので、まず、「芸術文化」という言葉の解釈について共通理解をしておきましょう。芸術は文化を担う重要なものです。文化の1ジャンルにすぎない訳ですが、国の価値を際立たせるほどの価値を持っています。
 文化は他国、他民族から見た自国の独自性として認知されます。文化の受け手、つまり世界の人々が「これこそ日本の文化だ」と言ってくれ、県民が「我らが文化」と言ってくれて初めて認知される概念です。
全国都道府県議会議長会講演
■「芸術文化」の名を冠する短大
 芸文短大(「芸術文化短期大学」のこと、以下同じ)が公立大学法人化されて今年は5年目。現在の中期計画(6年)が終わりに近づき、新しい中期計画策定の準備を始めなければならない。来年は、新中期計画の策定と芸文短大創立50周年を迎える大事な年になります。
 一方では少子化、地域の文化教育予算の減少など、公立大学を巡る環境は大きく変わりつつあります。公立短大に限って言えば全国的に大学数が減少しています(最盛期は平成元年度に53校あったのが、平成20年度には24校、本年は19校となった。)多分このような環境の下での生き残り策が一番重要なミッションであろうと自覚しております。それも、単なる現在の延長線上ではない、新たな発想が必要だと思います。
 本学は昭和36年に芸術系2学科(美術・音楽)から始まり、平成4年に人文系2学科(国際文化・情報コミュニケーション)を加えて今の姿になりました。
 平成18年に法人化しまして、19年度から芸術学科に学士号の取れる認定専攻科を開設しております。20年度、21年度と認定専攻科を卒業して「学士」を取得した学生が40名ずつ生まれました。現在の学生数930人、そのうち男子が10%です。全国31道府県から来ており、卒業生は約1万2千人を超えております。 
 芸術系2学科だけでなく、人文系2学科を加えて現在の姿になったことは、今考えても英断であったと思います。単なる芸術短大との違いは、人文系の存在で、より広い社会常識の取得が可能になり、芸術的な雰囲気の中で過ごした時間は、一般の短大とは比較にならないほど、文化を受容する力のある子女を育てることができるようになったことです。つまり言語・論理の左脳と、情緒、感性の右脳がバランスよく発達する教育機会となっているのです。
 芸文短大で行っている芸術教育は、専門的な教育によって社会に出てプロとして活躍できる学生を育てる使命があるのですが、専門家にはならなくても芸術的なセンスを持つ一県民、つまり「芸術」を教養として身につけ、教養人として文化の発展に参加し、実践することのできる人を育てることも同じように重要な教育の目的だと考えています。
 全国の大学と名がつくなかで、最も授業料の安い本学の存在価値は希少価値でもあります。

■我が国の地域事情からみた問題意識
 国からの予算財源はどんどん縮小しており、文化予算はかつての半分以下で、文化事業は厳しい立場に立たされています。
 地方自治体が直面する問題点として指摘しておきたいのは、「多くの箱ものは使わなくてもお金を喰う。壊すにも金がかかる。作るときの雇用や公共投資は、20年経つとマイナスに転じる」という厳然たる事実です。
 文化にお金をかけることはムダなのかということですが、お金をかける相手は県民の心。心が豊かになると、社会の知的レベルが上がります。レベルの上がった地域には様々な副次効果が現れます。20年後にはそのメリットが顕在化します。箱物とは全く逆のお金の使い方です。
 これを私は「文化の資産化」と言っています。
 もし地域において「文化の資産化」ができると、様々な文化活動がお金を伴って成立するようになり、その結果は箱ものではないノウハウの蓄積という形で、地域を豊かにすることができるのです。
 文化レベルのアップが、どのように地域の資産になるのか、イメージがなければ、スタートできません。他県の成功例を検証することが重要です。例えば、昨年大分で発足したジュニアオーケストラ((財)大分県文化スポーツ振興財団主催)の存在は、発足1年にして文化の資産化の重要な要素となることが実証されつつある驚異的な成果の一例です。このジュニアオーケストラへの指導には、芸文短大音楽科の教員が音楽監督として務めてきたことも付け加えなくてはなりません。
全国都道府県議会議長会会議
■文化を資産化する・・・今日の話題への導入
 文化とは抽象概念ですが、その文化を体現するための芸術活動は「ひと・もの・かね」の集積によって成り立っています。文化に投じられるお金は、大部分が芸術的な営みへの労賃です。このお金は直ぐに回転します。どこかにストックされるのではなくフロー性の高いお金です。
 一方で、それらの営みを文化にまで昇華させるためには、その行為のなかに、はっきりと意識された哲学とそれを貫徹する意志とが欠かせません。それらがあってこそその営みは無形資産となるのです。
 公共施設という名の「箱」に例を取ると、単なる「箱」に終わらずに、使う人や運営する人によって様々な機能が加えられ、それによって付加価値が上がって人も集まってくるという仕掛け、つまりソフトやノウハウを設計段階から併せ持ったものになっていることが重要です。
 このことを「資産化」という概念で言い換えてみます。「建物の設計」に先だって「機能の設計」に力を入れ、しかもその機能は開館した当初にはその多くが隠されたままであり、利用していくなかで「あれもできる、これもできる」という形で顕在化していきます。これはノウハウの作り込みであり、スパイラル状にノウハウが高まって行く姿です。参画する県民・市民たちのノウハウが注入されることで、この施設はさらに価値を生む存在に高まっていきます。しかもエンドレスに続く循環です。そうすれば「箱」は単なる「箱」に終わらずに、「玉手箱」に変わるのです。
 「取り敢えず多目的」というのは、スポーツでいえば多目的運動場を作って、プロのサッカーも野球もそこでやれと言うのに等しいことです。全てが中途半端、つまり「多目的は無目的」ということになるのです。

■芸術文化への支援とは?
 芸術活動のプロセスには費用がかかりますが、結果を出すことによって文化の資産化が行われると考えると、そのプロセス段階で資金的に援助するということの必然性が生まれてきます。
 30年、40年で老朽化すると、単なるコンクリートの塊になるものとは異なり、十分な思想を持ってソフトを内在して作られた箱は、進化することで文化的資産へと育っていくという考え方をすべきです。
 数字には換算できませんが、県民の心は豊かになるというわけです。
「ひと、もの、かね」の配分について考えてみますと、
  ひと = 芸術家、スタッフ、聴衆に対する支援はそれぞれ異なる
  もの = 舞台、会場、機会、環境が「芸術活動」プロセスに関わる
  かね = 入場料収入、公的助成、民間助成、各項目の比率が問題
 時間軸にかかわる判断では、長い準備期間、継続性、蓄積再創造のサイクル、ペイするまでの時間などを考えると、継続的な資金の投入が必要で、これは確実に県民に循環してくる費用になります。東京から「何かいい芸術」を持ってくるのではなく、県内に発信と受信の仕組みを作ることができれば、お金は回転するのです。文化庁で始まろうとしている助成の考え方もこの趣旨に沿っているといわれています。
■芸術文化と産業界の類似点:芸術という要素の作り込み
 芸術活動「作り込み」の中で、独自の芸術要素が入り、文化的価値を生むプロセスを考えてみましょう。これは「芸術要素」のところに「品質」を入れれば「ものづくり」と同じです。これが世界から驚きと敬意を持って認められたのです
 極言すれば「ものづくりそのもの」が「日本文化」、「地域文化」となりますから、形あるものでも形のないものでも、共通の価値観を持つべきです。
■まとめてみますと、「文化芸術活動」を資産化する三つの視点が重要です。
  1. 芸術活動とは何かの理解→芸術活動は「ひと、もの、かね」の世界。
  2. 芸術活動に関わる立場によって意味は違っている。活動の出し手、スタッフ、受容者、そのそれぞれに成果は定着しますから、自前のスタッフでスキルが蓄積されてくると、内容も充実するし、腕を持った専門家が育ちます。つまり人的資産が生まれます。東京から雇ってくる必要はなくなります。
  3. 芸術活動の教育的、経営的側面→「芸術活動」の結果の鑑賞者へのフィードバック(感応)。
■若者の育成は次世代に対する重要な責務・・・地域に生きる教育のあり方
 芸術の追究は、その音楽会や展覧会という市民への発表によって、また人文系では積極的に地域に出て行って様々な行事に主体的に関わっていくことで、一般市民の評価を受けるプロセスが必須です。学生の教育と同時進行で市民の啓蒙も行われるわけで、この副次効果は無視できない大きな存在となっています。これこそが地域に生きる大学の真の価値だと思います。
以上

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