大分県議会56分勉強会資料(2009年03月10日)
文化を資産化する(レジュメ)
はじめに
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筆者の略歴
- 工学部出身で非鉄金属会社に32年勤務後、日本最大の民間オペラ団体に身を投じて11年余。昨年10月から芸短の理事長兼学長
- 研究者でもなく、教育者でもない私のようなスペックの人間がなぜ必要だったのか?
- 芸短は公立化して3年が過ぎ、6年間の中期計画の丁度半分過ぎた時点。3年後に始まる新中期目標の準備を並行して始めなければならない時点
自分史について
- 別紙略歴の通り
- 会社時代、全社リストラでマッキンゼー社のコンサルティングを2度にわたって受けた際に、全社の研究開発の再編成を任されたことも貴重な経験
- 絵と音楽は一生の趣味
「芸術文化」の名を冠する短大
- 「芸術文化」という言葉の解釈。芸術は文化を担う重要ではあるが1ジャンルにすぎない。
- さて、我々の大学で芸術といっているのは「芸術活動」を教養として身につけ、実践することのできる学生を育てることであり、その人たちが社会に出て、芸術家もしくは芸術的なセンスを持つ一市民として文化の発展に参加
- 芸短は芸術系2学科から始まったが、その後人文系2学科を加えて今の姿になった。このことは今考えても英断であった。
- 単なる芸術短大との違いは、人文系の存在でより広い社会常識の取得が可能になったこと、しかも芸術的な雰囲気の中で過ごした時間は、一般の短大とは比較にならないほど文化を受容する力のある子女を育てることができるようになった。
- むしろ4大化を前提とする検討がかなりのところまで進んでいたことを見ると、短大から4大化という日本各地の短大で起こっている動きと無関係ではないかもしれない。
- 世の中では短大から4大化の動きは全国的に活発であるが、芸短ではどうかについては今となっては別問題で、振り出しに戻ったと考えた方が妥当
我が国のオペラ事情からみた問題意識
- 我が国のオペラ事情:年間1000回以上のオペラ公演、内50%強が東京およびその周辺県(首都圏)での公演である。新国立劇場が最大で、民間では(財)東京二期会が最大規模
- それを可能としているのが二期会(声楽家による互助団体)
- 民間事業者には海外のオペラ劇場と組んで日本国中で巡業しているところも数社あるが、ポピュラーな演目に限られること、ある一定規模の公演回数が受注できない限りビジネスモデルが成り立たないなどの理由で、昨年あたりから変調を来しているようである。
- 地域のオペラ活動:各地に県民オペラ、市民オペラ等は金がないため参加者はボランティアに頼らざるを得ない。それ故に地元にオペラ制作ノウハウが残りにくいことなどの問題がある。
- 地域で専門家を育てるには芸短のような地域に地盤を持つ教育機関でプロデューサーの養成をする必要がある。地元に帰って仕事をしたいと思っている人は大勢いるが、受け入れ態勢がないため。需給のミスマッチという問題が内在している。
- もし次に述べるように地域における文化の資産化ができると、このような活動がお金を伴って成立するようになり、その結果は箱ものではないノウハウの蓄積という形で、地域を豊かにすることができるだろう。
- 近く発足するジュニアオーケストラの存在は、このような文化の資産化の重要な要素となるだろう。
文化を資産化する・・・今日の話題への導入
- 文化とは抽象概念であるが、その文化を体現するための芸術活動は「ひと・もの・かね」の集積によって成り立っている。
- しかし、それらの営みを文化にまで昇華させるためには、その行為のなかにはっきりと意識された哲学とそれを貫徹する意志とが欠かせない。それらがあってこそその営みは無形資産となる。
- 重要なかつ注目すべき一例として多摩美術大学の図書館を挙げる。
- 図書館としての機能の他にも様々な使い方を想定した設計が隠されていて、館を運営するスタッフ達によって今も次々に新機能の提案が続いている。
- この図書館は開館後1年間で、大学に見学依頼を出した外部の関係者や客だけでも7千人に達し、学生の利用は、建設前の旧図書館に比べて2倍になった。
- 図書館という名の箱が、箱に終わらずに使う人や運営する人によって様々な機能が加えられ、それによって付加価値が上がって人も集まってくるという仕掛け、つまりソフトを設計段階から併せ持ったものになっているからだ。
- これは、単なる斬新な設計の建物が目を引くだけではなく、持てる付加価値が大きな成果を生んで文化に高められ、それが外部に発信されて行くことを意味している。
- このことを「資産化」という言葉で言い換えた。「建物の設計」に先だって「機能の設計」に力を入れ、しかもその機能は開館した当初にはその多くが隠されたままであり、利用する中で「あれもできる、これもできる」という形で顕在化していく。これはノウハウの作り込みであり、スパイラル状にノウハウが高まって行く姿。図書館は単なる書架と閲覧室ではなく、図書館の存在そのものが、本来文化の骨格を担う重要な要素であることを示している。
「文化芸術活動」を資産化する三つの視点
- 芸術活動とは何かの理解→芸術活動は「ひと、もの、かね」の世界
- 芸術活動に関わる立場によって「芸術活動」という言葉の意味は違っている。
- 芸術活動の経営的側面→「芸術活動」の結果の鑑賞者への感応
支援とは?
- 芸術活動のプロセスでは費用がかかるが、結果を出すことによって文化の資産化が行われると考えると、そのプロセス段階で資金的に援助するということの必然性が生まれてくる。
- 40年や50年で老朽化すると、単なるコンクリートの塊になるのと違って、十分な思想を持ってソフトを内在して作られた箱は、進化することで文化的資産と育っていく。
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「ひと、もの、かね」の配分
- ひと = 芸術家、スタッフ、聴衆に対する支援はそれぞれ異なる
- もの = 舞台、会場、機会、環境全体が「芸術活動」プロセスに関わる
- かね = 入場料収入、公的助成、民間助成、各項目の比率が問題
- 時間軸にかかわる判断 → 長い準備期間、継続性、蓄積再創造のサイクル、ペイするまでの時間
芸術活動と産業界の類似点:芸術という要素の作り込み
- 文化は芸術の専売特許ではない。
- 他国、他民族から見た日本の独自性が文化として認知される。
- 作り込みの中で日本独自の芸術的要素が入っていき、文化的価値を生む。
- 異ジャンルの芸術家がお互いの考えをぶっつけ合いながら作り込んでいく過程が、新たな価値観の創造に結びつく。
文化の有無は受け手によって決まる
- 文化の受け手、つまり世界の人々が「これこそ日本の文化だ」と言ってくれて初めて実現すること。
- 我が国独特の「作り込み」プロセスに対する外国人の驚きと敬意
- 極言すれば「ものつくり」そのものが「日本文化」
育成は次世代に対する重要な責務
- 二期会(当時は財団法人二期会オペラ振興会)は新国立劇場ができるまで22年間文化庁の委嘱でオペラ研修所を運営してきた。
- そこで育った歌手達は、我が国のオペラ上演において指導的位置を保ち、数多くのスターを輩出した。
- 自団体の公演に出演できるレベルの歌手を自ら養成
- 実際の芸術活動にリンクさせながら新人の養成が行われなければならないという主旨で続けられた教育の成果は大きかった。
- 大学も同じ。芸術の追究は、その発表(音楽会や展覧会)によって一般市民の評価を受けるプロセスが必須。(野球部に球場、サッカーにグラウンドと同じ意味で、小さくともきちんとしたステージを持つホールは不可欠であり、美術には展覧のスペースは必須条件
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