首藤コレクション総会資料(2009年07月01日)

県立美術館構想に寄せて~その「場」と「心」

議会事務局講演
 平成21年度の首藤コレクション顕彰大分県推進協議会(会長・安部省祐/県議会議長)の総会が7月1日、県庁で開かれました。同協議会の活動目的は「首藤コレクションのロシアからの里帰り」と「県立美術館の建設」。県の中期財政運営ビジョンの中に、県立美術館の基本構想の策定が明記されたことから、建設実現の可能性が大きくなりました。そこで、同協議会から本学の中山学長に対して、「県立美術館構想に対する提言」の依頼があり、協議会の総会で、『県立美術館構想に寄せて~その「場」と「心」』と題して講演を行いました。
 以下、講演資料として配付したレジメを掲載します。

●建てるとしたら「いい美術館」であることにこだわりたいと思う。
・美術館の機能面から見た要件
・美術館自体の持つ魅力(よい建物はそのものが人を呼び込む)
 →スペイン、グッゲンハイム・ビルバオ美術館の例
●副題で「場」と「心」としたわけ
「心」がない「場」は単なる箱であるということから、「誰のために」「何」を「どのように」行うかという美術館の基本方針を、事前に十分検討した上で、それに適した「場」をつくることが「いい美術館」に必須のプロセス
●どうすれば「いい美術館」ができるのかを考える前に・・・
  1. まず前提としての疑問の第一は、「美術館」とは本来どういう機能を持つべきものなのか。博物館法という法律に該当する施設は、調査研究を行う学芸員を置かなければならない。その法律の意味合いとは?
  2. 収蔵にはあまり力を入れず専ら公募展への場所提供がメインの設備もある。東京では貸し館も一定の存在価値があるが地方は成り立つか??
  3. 日本中至る所に存在する美術館は、今はどう評価されているのか?大分県のことを考えても、県立美術館はすでに存在する。では今回なぜ新美術館なのか?今回別の場所に建てるとすると、この施設にかけた費用はどうなるのか?
  4. 芸館は計画段階のプレゼン資料を見たわけではないが、多分「緑の中に芸術文化施設が散在し、多くの市民が憩うオアシス」といったイメージだったのではないか。実際はどうだったのか?公園といっても、そこが憩いの場になっているか、つまり、ロケーションには問題はないのか。
  5. 建物自体が人を呼び込むことを考えると、どのような建物を造るか、またどのようなプロセスで設計者を選ぶかも重要な要件。一旦建設すれば数十年以上は使い続けるのだから、計画段階で最短でも半世紀のスパンでものを考えて綿密な計画を立てなければ、百億を超える建設費をかけることなど到底できないだろうというのは、実業出身者だから考えるのではなく、税金で「もの」を作る人もそうあるべき。
  6. 現在の美術館は過去に大きな展覧会を開催して直接収支が黒字となったこともあるが、平時はあまり多くの訪問者はいないようである。その理由は何か?魅力的な常時展示ができていないのが原因か?運営予算も決して潤沢ではなく、ここ数年収蔵作品は全く購入されていない。常時展示をしても、いつ行っても同じ展示では足を運ぶ人は減っていくのでは。
●美術館の重要な機能としての美術品収蔵
  1. すでにある収蔵作品は常時展示に十分な量か。時々テーマ別に入れ替え展示はできるのか?それだけのストックを持つためには、コンスタントに収蔵品を増やす不断の努力が必要で、それにはお金がかかる。
  2. どのような収蔵品にするかは、哲学を持って収納品全体の設計ができる優秀な学芸員が必須であることは、他の成功例で証明されている王道だが、それも予算が捻出できての話しである。
  3. 予算の範囲内で、というよりどれだけ予算をかけて真の県民のための文化の発信点にしようとするのか、その哲学が重要と思われる。
●どのような美術館にするのかという議論
 結局一番の問題は、県立美術館がどのような機能を持ち、どのような人々に利用され、どのような文化的アウトプットを出すのかといった議論が必須。その上で建築家側からの大胆な提案を受け入れることが重要。
  1. 利用団体の「自分たちにとっての利便性」が優先され、多分それらの要求に配慮すればするほど、多目的という名の無目的な空間となってしまうだろう。
  2. その上で建築家側からの大胆な提案を引き出すこと。各地に美術館が建ち続けていて、成功したと言われる美術館は確かに存在する。どこが、なぜ成功したのか、を調べるだけでも優れた建築家の存在の重要性が見えてくるはずだ。
  3. その上で大分県はどうするのかを、本県の文化・芸術の将来を展望しつつ、そのコアとなるべき施設のあるべき姿を大所高所から英断することが必要であろう。総花で中途半端になるのではなく、思い切って重点設計をすべきである。
●美術館を設計する際に考慮すべき3つの条件
 はじめにも述べた幾つかの状況証拠をまとめると、次の3点に要約できる。これは美術館に限らず、ホールや図書館など、沢山の人々が来館することで成果を挙げ、文化の伝承や教育が行われる場所に共通の条件である。
  1. 人が集まる仕組みがあるのか(アクセス性):鑑賞のために県内や県外の様々な人たちが容易に訪れることができるロケーション。公共交通機関との隣接性は、老若男女が対象である限りはるかに優先されるべきだ。
  2. 誰のための施設かをはっきりすること:県美展のスペースだけなら、年に二回テントを立てれば済む。様々な市民に鑑賞を薦める意図があるなら設計段階で、スロープやエレベータが考慮されるであろう。今はユニバーサルデザインという言い方で、バリアフリーが考慮の対象になっているが、予算がオーバーするとこのあたりがカットの対象となるのだ。哲学がないからだ。
  3. 何をどう見せるのか:総花にすればどれもが中途半端となり、何かに集中しようとすると批判が起こる。結局みんなの意見を取り入れることとなって無目的化する。長いスパンでものを考え、数十年後も大賑わいを続けている文化施設とは一体どんなところなのだろう。水族館、動物園、図書館などで、あらゆる年齢層の動員に成功した例はよく知られている。そこに総花的な妥協はなく、あるキーマンの独創的なアイデアが全体を支配することが成功の鍵であったことはよく知られていることである。
●成功例に見る美術館のあるべき姿
 他県にある既存の美術館に関するコメントをまとめた。
「建築事業」という枠組みを超えた建築家の働きとして、下記のような要件が浮かび上がる。
  1. 公園や駅前と一体となった環境をトータルで考える姿勢。
  2. プログラムへの積極的な関与。
  3. アドバイザーの選定。キーマンの強い意志と呼応して、その実現が望める好みの建築家、という組み合わせは、やはり筋の通った結果を出している。
  4. 一番大切なのはオリジナリティー。だが賛否がつきもの。だからこそ議論が巻き起こる場になり、みんなが意味を考えることが、そのまま建物を生かしていくことに繋がっていく。

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